子どもの『不適応行動』について
現代日本の憂慮すべき・解決すべき問題として,子どもたちのいじめ・不登校・自殺・犯罪などがあります。これらは何をおとなたちに訴えているのでしょうか。
健康とは,「身体的・精神的・社会的に良好な状態であり,単に疾病・病弱の存在しないことではない」。このWHOの概念から,「心の健康 」を考える時,前述の子どもたちの行動は明らかに,精神的・社会的に不健康です。
子どもたちの「心の健康」を取り戻す術はないのでしょうか。「社会が病んでるから子どもたちも病んでいるのだ」と言いきる前に,解決法を模索しながら,子どもたちの心の問題を考えてみましょう。
1)適応とは
適応とは,
生活体と環境とが調和した関係を保つことをいいます。例えば,幼児が遊んでもらいたく(要求)て母親にいろんな働きかけをしたとき,母親がその子どものはたらきかけに応えたときが
適応状態で,無視されたときは
不適応状態です。そして不適応状態の場合は不満が生じますね。この場合など,幼児はおもちゃを母親に投げつけたりもします。(子どもの不適応はほとんどの場合、行動に現れます。)
人間には生まれつき要求があり,発達とともに依存・承認・自己顕示・自立要求などの社会的要求が生まれてきます。これらの要求は人間に特徴的な行動を起こさせ,環境と能動的に関わるようになります。しかし不適応状況と不満が慢性化し,
防衛規制が効かなくなると,不適応行動が発生するのです。
2)適応規制(防衛規制)について
適応規制とはフロイトによって提唱された概念で,
不満や不安から自分を守る心理的なはたらきのことです。どのような適応規制があるのか以下に簡単な説明をしておきます。
@
代償;欲求の実現ができないとき,他に代わるもので満足すること。
A
合理化;満足できない不満を,自分に都合のよい口実を設けて正当化すること。
B
同一視;望ましいと思われる性質を自分の中にとりこむこと。
C
投射;自分の持つ望ましくない特質が他人の中にもあるとみなし,自分を欺くこと)
D
逃避;困難を避ける為その場面から逃げ出すことで自分を守ろうとすること。困難な場面を避ける
退避と病気になることによって困難な場面を避ける病気への
逃避がある。
以上のように適応規制とは,真の自分の姿を直視しないようにする心のはたらきなのです。一時的なごまかしであれ,それによって心の緊張が解消されるならば,それは1つの適応への心のはたらきといってもいいのですが、適応規制が頻繁に用いられ,これだけに頼って行動するようになると,それはもう不適応行動と言わざるを得ません。
以下は適応規制もままならないとき現れる子どもの問題行動です。
@心の問題が主に身体面を通して現れるもの;気管支喘息・発作・食欲不振・嘔吐・チック・点頭けいれん・高血圧・心拍増etc.
A神経症的問題行動;偏食・拒食・過食・不眠・夢中遊行・夜驚・悪夢・緘黙・吃音・夜尿・頻尿・爪かみ・チック・指しゃぶり・登校拒否・学業不振etc.
B反社会的問題行動;攻撃行動(けんか・乱暴・放火・反抗etc.)
非攻撃行動(うそ・怠学・徘徊etc.)
以上のように,現れる不適応行動はさまざまであるが,要因も多様化しています。
4)事例(私の体験談です)
@登校拒否とチック症
12歳男子N(中1)・家族構成(両親と1歳年上の兄)・特殊学級在籍(学区外).
Nは知能が多少遅れてはいるものの、身体は健康な礼儀正しい生徒でした。
ある年の夏休み以後欠席が目立ち始めたのですが,どうも朝になると腹・頭・足が痛くなるとのことでした。そのうち学校にほとんど来なくなったのです。
登校拒否の初期症状と理解し対策を検討中,隣街の公園で補導されたNの眼は窪み,顔面にチック症状が現れていました。Nは「家を出て,毎日いろんな所を歩き回っていた。」のです。以後,登校したものの,チックはどんどんひどくなり,母親の作ったお弁当もゴミ箱に捨ててしまい,痩せ細っていきました。
小児心療内科で,「Nは母親との関係が悪い,母親の作った食事を食べないのだから体力も持たない,入院して病院から学校へ通うように。」と診断されました。合わせて,家族全員診察(カウンセリング)を受けました。
数回の診察後母親は,
「兄は勉強もできて良い子なのに,Nを特学に入れるよう指導されたのはショックであったが,学区外であったため納得した。」
「兄の学校でPTAの役員をやっていて忙しいのを口実に,NのためにY中に足を運ぶ気にはならなかった。」「Nは幼い頃より私にはあまりなつかず,いつも大きな眼で見つめられると睨まれているようで好きになれなかった。」と自らを省みて泣き崩れたのです。
本事例では,12年間のNと母親の不適応状況が,特殊学級に入れられた,という母親の意識の持ち方で,一気にNの不適応行動へと繋がったと推測できます。小学生までのNは「良い子であることで,母親のプライドを傷つけまいとして一生懸命ふるまっていた」のですが,母親は自分にそっくりな眼を持つNを赤ちゃんのころより「遠ざけて」いたようです。Nは適応規制もままならないまま,心の病気になり母親に限界を示したと考えられます。
A無気力生徒と母親
14歳男子S(中2),家族構成(両親と10歳上の姉),万引き歴あり(小学生時代).
Sは学業成績オール1であるが,知能は普通よりも高い,長身で早熟な見栄えの良い生徒でした。授業中は寝てるか,いたずらをしているか,手足を投げ出して天上を仰いでいました。教師には,学習意欲の皆無な「無気力」な生徒として写っていました。しかし、どこか愛らしい部分がありました。スカートめくりは中1で卒業したものの,いたずらはどんどんエスカレートし,高価な品物を持ち込んではいたずらを繰り返し,また知能犯でもありました。
母親には「うちでは良い子です。」「小遣いは要求されただけ与えてます。」「オール1でも他人に迷惑はかけてません。」,父親にも面接したいと告げたところ「主人には話さないでください。以後Sに注意しますから。」といわれ,それ以上は踏み込めませんでした。
Sのばあいも、きっと、家庭に何らかの原因があるのだと、私は今でも確信しています。
5)子どもたちの心の健康をとりもどすために
事例2は極端な例ですが,青年期前期の学業に対する「無気力」な生徒はかなりの数にのぼります。彼らはおちこぼれ・不登校・非行へと必然的に移行して行く場合が少なくありません。学歴社会の弊害なのでしょうかか。ならば,社会全体の中の学校教育のあり方をもう1度考え直す時期に来ていると言わざるを得ません。
しかし私は、子どもたちのパーソナリティの基礎を築く親子関係の方こそ重要性であると声を大にして言いたいのです。。「子どもの不適応行動」の要因は,必ずや子どもの発達過程にあり,親や保育士のパーソナリティにも関わっています。おとなたちこそが健康な心をもつこと,さすれば,いじめや自殺のない社会になる,と信じています。
最近よく「価値観の多様化」という言葉をききますが、子育てに関しては、逆に価値の教科学習勉強をするところ」といった考えのどこが多様化なのでしょう。
確かに、「家や子どものためだけに生きる」女性は減り、「生涯独身の」「仕事最優先の」「再就職する」女性は増えました。これがその価値観の多様化なのでしょうか、、、、(これ以上は誤解を招くので、差し控えます。)
子どもは「作るもの」でも「できちゃったもの」でもないはずです。そして、生まれてきた子どもに、お金をかけて、高等教育を受けさせるのが、親の責任であり義務ではないはずです。
基本的な親子のそして家族の信頼関係ができていれば、どのような価値観を親がもっていようとも、どのような社会へ投げ出されようとも、子どもは自立したおとなに育ち、自己実現に向かって歩んでいく、というのが私の持論です。
P.S.この件に関しては、機会のあるごとに書いていきたいと思っています。
02/08/26
01/10/03
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